石原莞爾語録

人各執る所あり。彼れ非、我れ是と云う能わず。只己れは是を持し、以て其の所信を貫かんのみ。

凡そ大事をなすの秘術は至誠に在り。彼の術謀の如き、これその影のみ。其本体に非ざるなり。ルーテルを見よ。ツヴィングリーを見よ。彼等の眼中は、只人民のためを計るの熱誠のみ。何ぞ他意あらん。これ其の偉大にして絶世なる本業をなせし根本なり。豊公、家康の如き人皆其の事業の大なるを賞す。然れども何ぞ知らん、其の原因の最大なるものは、矢張り我が国威を挙げ我が人民を乱世中より救わんとする至誠よりなるを。

歴史を読みて所感あり。今に初めぬ事ながら、古来興亡の様を見るに質朴勇武の風多く其の主因たり、野蛮人起り善く軟化せる文明人を破る。即ち、武勇は国を興し華美は国を滅す。是れ大羅馬帝国に於て最もよく示すに非ずや。

それ人皆聖ならんか、腕力を用いずして実に善美なる効果を挙ぐべし。然れどもこれ弊害を及ぼすに至るべき必然の勢なり。何となれば人は皆聖ならず、否其の大部は凡人なればなり。凡そ万事其の起源は頗る美事なるも、これが因襲の後は必ず弊害百出する。古来の歴史に徴して明なる所なり。これ其の後継者に適当のものなければなり。今凡人をして聖人のよくすべき事をなさしめんとする、亦危険ならずとせんや。危険とは何ぞや。柔懦の風其の中に起る、これなり。柔懦は奢侈華美を伴い、これ等は軍隊の衰微を来たし、国家の滅亡を起す。亦危険ならずや。

*以上は士官学校時代(1907〜9)の日記より。

軍を毒すな。軍人という奴は世間知らずで極めて臆病な奴なんだ。世間ずれした羽織ゴロの右翼が、国体論や安価な内容のない革新論を振り廻し、自分には何百人もの同志があるなどとホラを吹く、びっくりして大先生と思い込んでしまうのだ。近頃の革新屋と、軍人ブローカーを見ろ。口に国体論を唱え、国民に向って天皇に忠誠を強要しながら、彼らに一人として天皇に忠誠なものがあろうか。天皇に忠誠なら、何故に天皇の軍を毒すのか。何故に軍人の政治干与を煽動するのか。日本の革新はもちろん必要である。それが悪いというのではない。「政治に拘わらず」の勅諭を戴き、政治の国外にあるべき軍人を、何故に自己の政治行動に引き入れようとするのか。軍人にして政治に参与できるのは、陸軍大臣および次官だけである。その他は固く禁じられている。軍人が徒党を組んで政治行動に出る奴らを軍閥というのだ。軍人に政治ができてたまるものか。軍人が政治に手を出すのなら軍人をやめて丸腰になってやれ。軍を毒した元兇は大川周明である。大川の国体論など一顧だにも値しない。

できることならば生涯連隊長で終りたい。私は兵と共に居る連隊長が最も楽しみだ。兵と離れては軍人としての生き甲斐がない。馬占山なんぞ馬賊あがりの親分だったから、子分の兵隊と離れてしまっては、どんな位階をもらって、どんな地位におかれても、つまらなくてたまらなかったのだ。

検閲か。検閲で特別に部下にやかましくして自分の成績をあげようなどとする奴に限って、平常なまけている奴さ。そして戦場では部下を殺し、下手な戦争をする奴さ。軍人は常に戦場に在る気持が大切だ。だから検閲などといって特別なことを私はやらない。特命検閲使が来たら,平常のままの連隊を見てもらうだけだ。それがほんとうなんだ。

こんなのが明治以来軍隊を高等監にしてしまったんだ。兵隊は風呂の中でも不動の姿勢をとっておれというのか。将校は家庭の風呂でくつろぐことができる。たまには浪曲のひとくさりくらいは出ることもあろう。それが軍の風紀と何の関係があるか。兵隊は将校と違って温泉などへは行かれないんだ。温泉に行った気分にさせてやったらよいではないか。

*以上は歩兵第四連隊長時代(1933〜35年)

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